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クラウド市場シェアナンバーワンはどこだ?~AWS vs. マイクロソフト~

「AWSが世界のクラウドサービス市場で首位陥落、マイクロソフトが逆転」というニュースに驚いた方もいらっしゃるかもしれません。見出しだけ読んで誤解している方も多いようなので中立の立場から解説したいと思います。


目次[非表示]

  1. 1.はじめに:クラウドと私たちトレノケートとの関係
  2. 2.結論
  3. 3.解説:話題のクラウドサービス市場記事について
    1. 3.1.出典1: 日経XTECH
    2. 3.2.出典2: オリジナル記事
  4. 4.ところでGoogleは?
  5. 5.まとめ


はじめに:クラウドと私たちトレノケートとの関係

弊社「トレノケート株式会社」は前身となるグローバルナレッジネットワーク、さらにその前身の日本DEC教育部時代から、マイクロソフトの認定トレーニングを行なっています(Windows 95すら登場していない時代です)。また、AWSとは2013年以来の認定ラーニングパートナーです。そして、2018年からはGoogleの認定トレーニングパートナーでもあります。これだけ多くのクラウドプロバイダーと密接な関係を持つ会社はあまりないでしょう。2015年から2017年はIBM CloudのIaaS(旧称SoftLayer)の教育コースも実施していました。どのクラウドプロバイダーともお付き合いがあるため、クラウドに関しては常に公平な立場を維持しています。今回も、なるべく公平に議論を整理したいと考えています。


結論

AWSが、首位「陥落」という表現は適切ではありません。AWSはIaaSとPaaS分野では依然として高い市場シェアを持っています。SaaSを含めた全クラウド市場シェアはマイクロソフトが優勢ですが、AWSは基本的にはSaaSを持っていないため、「陥落」という表現は適切ではありません。SaaS抜きで僅差の2位というのは、むしろAWSの優位性を示しています。

マイクロソフトのクラウドが市場シェアを伸ばしていることは確かです。しかし、クラウド市場全体が伸びていますし、そもそも進化の激しい業界なので、これから先どうなるかは分かりません。AWSがどこかと手を組んで、SaaS事業を開始する可能性もあります。

では、もう少し詳しく見ていきましょう。


解説:話題のクラウドサービス市場記事について

出典1: 日経XTECH

多くの方がご覧になったのは、以下の記事ではないかと思います。

AWSが世界のクラウドサービス市場で首位陥落、マイクロソフトが逆転(日経XTECH) 
(外部リンク)

売上ベースのクラウド市場シェアを分析したものですが、ここにはSaaSを含んでいることに注意してください。つまり、Microsoft AzureだけではなくOffice 365の売上を含んでいるのです。

SaaSは立派なクラウドなので、ウソはありません。しかし、多くの方は「クラウド」と言えば仮想マシンを提供するIaaSや、アプリケーションのプラットフォームを提供するPaaSを思い浮かべるのではないでしょうか。そして、記事では「AWSはIaaSでのシェアが45%を占め、IaaSに限れば他社よりシェアを伸ばしている」と明記されています。なお、AWSはIaaSとPaaSを区別していませんので、ここでいうIaaSは「IaaS + PaaS」と考えて良いのではないかと思います。


出典2: オリジナル記事

情報ソースは、英国の調査会社「IHSマークイット」なので、元の記事を見てみましょう。

Microsoft takes top spot for total cloud services revenue, while AWS remains leader for IaaS; Multi-clouds continue to form (外部リンクへ)

見出しは「マイクロソフトはクラウドサービス全体の売上高で首位にたったが、AWSはIaaSで首位を維持、複数のクラウドが形成され続ける」ということで、「AWS首位陥落」といったニュアンスは強くありません。本文にも「Amazonは、オフプレミスクラウドサービスの総売上で首位の座を明け渡したが、IaaSプロバイダーのトップであることに変わりはない」とあります。この「首位の座を明け渡した」が「陥落」という表現になったのでしょうが、随分印象が違いませんか。

そもそもAWSはSaaS分野のサービスがほとんどないので、比べようがありません。「衣料品分野において、ファーストリテーリング(ユニクロ)の売上は、ワコールよりも上回っている」と言われたら「じゃあ、ユニクロの下着売上はいくらなんだ?」と思うだけでしょう?

確かにSaaSも、IaaSやPaaSも、クラウドには違いありません。マイクロソフトがクラウド全体で首位を取ったのは大きなニュースでしょう。別のニュースではAzureの伸び率はAWSを上回るという情報もありました(大変素晴らしいことです)。しかし、AWSが依然としてIaaSとPaaS分野で首位であることも確かですし、それも大きなニュースです。そもそもSaaSを基本的に持たないAWSが、クラウド全体でマイクロソフトに僅差で2位ということ自体がAWSの偉大さを示しています。

調査会社によって数字が違いますが、ごく大ざっぱに言ってAWSとAzure(AzureはIaaSとPaaSのブランドです)の差はざっと2倍以上あり、AWSの首位は当分揺らぎそうにありません。



ところでGoogleは?

ところで、このレポートでは3位にIBMを挙げていますが、Googleについてはまったく触れていません。GoogleもG-mailを筆頭に多くのSaaSを持ち、IaaSとPaaSも提供しているのですが、こちらはどうなのでしょう。G-mailユーザーの多くは無償で使っているので、売上高ベースの市場シェアには反映されないのかもしれません。しかし、IaaSやPaaSについてはIBMと3位争いをしているはずなのですが、どうしたのでしょう。今後のレポートに期待したいと思います。


まとめ

日本の多くのニュース記事で「AWS首位陥落」という見出しが出ました。しかし、ここで紹介したとおり、オリジナルの記事にそういうニュアンスはあまりありません。単に「クラウド全体ではマイクロソフトが首位」「AWSはIaaS分野で依然として首位」とあっただけです。

AWSの豊富なサービスとその増え方は業界トップクラスですし、マイクロソフトのハイブリッドクラウド構築製品は非常に優秀です。一方で、AWSはプライベートクラウドやハイブリッドクラウドに力を入れはじめましたし、Azureのサービスどんどん増えています。そのおかげで、クラウド市場はますます大きくなっており、現時点での勝敗を論じることに大きな意味はありません。

特定のベンダー間の競争を見るより、クラウド市場全体を見ていきたいものです。


横山 哲也(よこやま てつや)

横山 哲也(よこやま てつや)

トレノケート株式会社 講師。Microsoft Certified Trainer/Microsoft Certified: Azure Solutions Architect Expert/Microsoft Certified: Azure Administrator Associate/ Microsoft Certified: Azure Fundamentals/Microsoft MVP: Cloud and Datacenter Management(2003年-2018年)/EXIN Cloud Computing Foundation/ AWS 認定クラウドプラクティショナー。1994年から現在まで、Windows Serverの全てのバージョンでコースを担当。2005年からはサーバー仮想化、2014年からMicrosoft Azure関連コースを担当。現在は、AzureとWindows Server 2016を中心に教育コースを実施しているほか、新規コースの企画・開発も担当している。趣味は写真、好きなサービスは「Active Directoryドメインサービス」、好きなアイドルは「まなみのりさ」。

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