DXの取り組みで起こりがちな6つの失敗を紹介
近年、国が主体で進めるDX認定制度への注目が集まっています。DX認定制度は企業がデジタル技術を活用して製品やサービス、さらにビジネスモデルや企業文化・風土をも変化させることで競争上の優位性を確立する取り組みを認定し、周知する役割を担います。
企業がDX認定を受けることでさまざまな恩恵を受けられますが、その一方でDX化に失敗する危険をはらんでいることも確かです。今回はDX認定制度をきっかけに自社のDX化を推進したい企業向けに、6つの失敗とその対策を紹介します。
なお、DX認定の概要やメリットについては下記の記事で詳しく紹介しているため、ぜひご覧ください。
DX認定事業者とは?認定される方法や利点を解説
DXの取り組みで起こりがちな6つの失敗を紹介
ここでは企業がDX化に取り組み、認定を目指す際に起こりがちな失敗を6つ紹介します。失敗を知ることで対策が見えてきます。
失敗1 戦略やメリットの不明確さから従業員の士気が高まらない
DX化はやみくもに進めても成功しません。DX認定を見据えながらも「なぜDX化を進めるのか」「誰が行うのか」など、戦略を明らかにしなければ進むべき道筋が見えず、挫折してしまったり従業員の協力を得られなかったりします。
DX認定を受けるために経営陣が熱心にDXセミナーに通ったり取り組みを訴えたりしても、「なぜ」「どのように」の部分が不明瞭だと、従業員から「自分たちには関係がない話」「バズワードだから思いつきでやっているだけだろう」と安易に捉えられてしまいます。
また、いくら従業員が戦略を理解していても、今までのやり方のほうがDXよりもメリットが高いと思えないと、ついつい従来の仕事のやり方のほうが効率的に思えてしまうということもあります。戦略を明確にし、かつ、DXを導入することにより、仕事の効率も上がるなどのメリットを感じられるような説明が必要です。
失敗2 組織内での批判からDX推進が進まない
適切にDX推進ができると、業務を効率化できたり新たなビジネスモデルを確立できたりメリットが豊富です。しかし、革新には痛みがつきものです。痛みの中で従業員が成長したり団結力が高まったりする可能性がある反面、プロジェクト崩壊の危険性も潜んでいます。
たとえば、最新ツールを導入し業務フローを刷新すると、従業員の作業工数を削減できたり残業時間の短縮につながったりします。一方で、新しい作業フローや各種ツールに抵抗を感じる層から批判を浴びる可能性もあります。
特に、企業の中軸を担う人材から批判を浴びると、DX推進プロジェクトの崩壊だけでなくこれまで企業が培ってきた風土や文化を壊す可能性もあるでしょう。
経営者からの明確な戦略、メリットを提示することは左記に記載しましたが、提示するだけではなく、従業員へ戦略、メリットを浸透させるところまで実行し、ネガティブな意見がなるべく出てこないようにすることが重要です。
ただ、ネガティブな意見が出てくることはむしろ歓迎すべきことだと思います。戦略やメリットが浸透せず、表面的に言われたことに従う従業員のほうが多いと推進しても、戦略が徹底されず表面的になってしまいます。ネガティブな意見が出た際には、むしろなるべく多くの社員が見られる環境で、公開討論をしてさらに浸透を強化することも一つの手段だと思います。
失敗3 技術への過度な依存で従業員のスキルが高まらない
DX化に際して各種ツールをうまく導入できたとしても、従業員が使いこなせなかったり依存したりすると、企業の成長は止まります。
受発注管理システムや電子契約システムなど、業務効率化に使える選択肢は豊富です。しかし、システムを使って空いた時間を有効活用しなければ、ただ「便利になった」状態で止まります。システムやツールを導入してゆとりができた部分を新規事業の案出に使ったり改善活動に使ったりすることで、従業員に主体性が芽生えたり企業の新しいあり方を見いだせたりします。
効率化によって生まれたリソースをどのように活用するかは、戦略で語られることにもなると思いますので、戦略で効率化したその後のイメージを従業員にイメージさせることを忘れないようにしましょう。
リソースは、今まで手を付けられなかったタスクに割り振るのも良いですが、社員の育成などに時間を使うのも良いと思います。
失敗4 プロジェクトを率いるDX人材が不足
DX推進で大きな課題となる「DX人材の不足」は失敗に直結します。DXへの知見がない人材がプロジェクトを推進すると、中途半端なIT化に留まってしまい、かえって業務フローを悪化させたりする可能性があります。
DX化は最新ツールや技術を使うことだけでなく、それらを活用してビジネスモデルや社内文化や風土までをも変える取り組みです。そのため、適切な人材が用意できない場合は頓挫する可能性が極めて高いでしょう。DX推進者には推進能力や情熱ももちろん必要ですが、しっかりと戦略を理解し、戦略立案者がイメージした未来像を実現できるだけの知識水準が求められます。
失敗5 顧客からの理解が得られなかった
DX推進では、社内だけでなく顧客からの理解が得られない失敗も見られます。たとえば、取引先との書類を電子化してみたものの、ほとんどの取引先から「うちは電子化に対応していない」と言われ、結局新しいパソコンを買っただけに終わった、というケースがあります。
企業活動は自社のみでなく取引先や顧客との関係性が重要です。そのため、どれだけDX推進を進めようと思っていても、顧客から理解が得られず効果を最大限発揮できない失敗も見られます。
クリティカルシンキング等を利用して、様々な視点から戦略がステークホルダーにメリットを提供できるか事前に確認しましょう。
失敗6 DX化への取り組みが継続せず認定がゴールになった
DX認定がゴールになり、制度通過後は従来の業務フローに戻る失敗も考えられます。たとえば、DX認定制度申請に向けてDXプロジェクトを立ち上げ、無事に認定企業になったもののその後はプロジェクトが解散し、改善活動を行わなかった結果、認定前の業務フローに戻ってしまった。というケースが挙げられます。
目的と手段が入れ替わることは多々ありますので気を付けたいところではありますが、元に戻るということは、従業員が元の業務のほうがメリットが高いと感じている可能性がありますので、そのままDX化を無理に進めると、かえって効率が落ちる可能性もあります。
なぜ元に戻ろうとするのか、戦略に不備はなかったか、組織体制や運用に問題はなかったか、慎重に原因を探すことも一つの手段として検討するのも良いと思います。
DX化を成功させるためのポイント
ここでは失敗例を元にDX化を成功させるためのポイントを5つ紹介します。失敗例から学び、自社のDX化推進に役立てましょう。
経営層が主体となりDXへの理解を深める
DX推進を図るためには、経営層もDXへの理解を深める必要があります。DXは時には期を跨ぐような長期的な視点で取り組む戦略であり、部署内だけではなく部署間でも連携が欠かせません。また、デジタル技術やツールを導入するにあたっては資金投資が必要です。
そのため、経営層がDXに対して理解を深めていないと現実性のある戦略立願が計画できません。また、経営層がDXや現場での活用方法について理解していない場合、不要なツールを導入してしまったり、機能が足りなかったりなどのトラブルが発生する可能性もあります。スムーズに導入を進めるためには経営層がDXに対する知識を深め、現場で活用されるイメージをつける必要があります。
「なぜ取り組むのか」の発信に積極的に取り組む
DX化の目的はデジタル技術の導入ではなく、デジタル技術により企業の革新を進めることであるため、なぜ自社がDX化に取り組むのかを社内で共有する必要があります。
現場にツールを導入する際も、目的を伝えていないと現場での作業がスムーズに進まず頓挫したり従業員からの共感を得られなくなったりしてしまうでしょう。導入を進める際は、取り組み内容と目的をセットで共有します。経営者自らが全社員に対して、戦略の概要を従業員に理解してもらうためのメールや説明会などを用意しても良いと思います。
組織体制の構築と人材確保
DX推進を行うには従来の部署だけではまかないきれないため、DX戦略の専門部署を作ったり、外部からDX人材を招いたりする必要があります。社内で人材を確保するのであれば、DXに対する高度な知識やスキルを持った人材育成が必要です。DX推進の専門部署は、既存部署との調整やハレーションが起きることも想定できますので、DXを推進する組織体へある程度権限を付けなければ推進力が低下します。
スキル育成は、外部から専門家を招いて、研修や講習を行ったり、講義を取り入れたりと柔軟な学習方法の提供がおすすめです。外部からDX推進のリソースを確保するのも選択の一つではありますが、社内の組織体制、業務管轄、運用フロー、既存のシステム・ツールの利用状況、社内文化、組織間調整、などの問題は、たとえDXの専門家でも外部の人間にすべてを把握することは難しいですし、DX推進のスピードを遅らせることにもなります。外部の専門家と連携し、外部の専門家がDX推進をしやすくするための人材は社内で必要になることも忘れられないポイントです。
必要システムの導入と活用
DX推進により業務の効率化を図るためにシステムの導入と活用を行います。既存業務をデジタル化する際は、小さな業務から始めるとよいでしょう。ペーパーレス化や入力作業の自動化、書類作成など取り組みやすい業務から導入を進めると、従業員の抵抗感も少なく済みます。また、デジタル技術により業務の効率化が図れることが分かれば、従業員もDX化に対して積極的に協力する姿勢を持つ可能性があります。
ゼロから自社専用にカスタマイズされたシステムを作るのも良いですが、利用する部署を制限したり、利用範囲を限定的にするなどし、簡易的に既存のツールを導入して、従業員にDX化のメリットを体感してもらうのも良いと思います。
進捗を都度確認して改善を繰り返す
部署を立ち上げたりツールを導入したりしただけで満足せず、常に改善や情報のアップデートが大切です。具体的には従業員がシステムを使いこなせるよう定期的に研修を導入する方法があります。また、ツールやシステムの使いにくい点や不足している機能などがないか日々チェックし改善する繰り返しが、DX推進では大事な作業です。
すべての声に対し改善を進める必要はありませんが、なるべく多くの従業員のフィードバックを集めたほうが、現場でどのような問題が起きているかを把握しやすくなりますので、改善要望が気軽に従業員が出せる環境を構築するのも良いと思います。
まとめ
DX認定制度は、認定を受けるための取り組みがきっかけで業務の効率化が進み、従業員の労働負担の軽減にもつながります。しかし、DX化の目的を明確にし、適切な人材をアサインできない場合、失敗に終わる可能性もあります。
ただ、DX化を進める企業の多くが順風満帆にDX化ができているとも言えない状況です。ご紹介した失敗例を元に自社で「なぜDX認定制度へ取り組むのか」「企業の将来はどうありたいか」を具体的に取り決めてから施策に移ることが大切です。
なお、自社のDX化に取り組もうと検討しているもののDX人材がいない場合や育成を検討している場合は、トレノケートにご相談ください。トレノケートでは、DX人材を育成するための研修やオンライン講義を多数提供しています。
※参考・引用:DX認定制度(経済産業省)