「成人学習」のススメ
トレノケートには、講師が必ず受講する研修があります。「トレイン・ザ・トレーナー」という4日間の研修。社内外で講師をする方向けの講座で、1991年開講以来、30年以上、多くの方に受講していただいているものです。
この研修は、トレノケートの前身でもあるDEC(Digital Equipment Corporation)-USで開発されたものをアメリカから持ち帰り、日本語化した上である程度日本の文化に合わせてローカライズしてご提供しているプログラムです。
この研修の冒頭で、「成人学習」という章が登場します。これをアメリカで最初に聴いた時は、もの凄く衝撃を受けました。子どもの学習と大人の学習では違いがあるというのです。
マルカム・ノールズによる研究がベースになっているもので、私が渡米してこの研修を受けた時は、ノールズさんがご存命だったので、まだまだホットなテーマだったと思われます。(このマルカム・ノールズによる「子どもの学習と大人の学習の違い」という切り口には批判もあるようですが、人材育成を語る際、今でも参照される考え方ではありますので、ここでは、トレノケートが「トレイン・ザ・トレーナー」でお伝えしている内容に基づいて、解説していきます。)
子どもと大人の違いを4つの視点で見ていきましょう。
1.自己概念の違い
2.経験の違い
3.学習へのレディネスの違い
4.学習の方向付けの違い
目次[非表示]
- 1. 自己概念の違い
- 2. 経験の違い
- 3. 学習へのレディネスの違い
- 4. 学習への方向づけ
- 5. まとめ
- 6. おすすめトレーニング
- 7. あわせて聞きたい
自己概念の違い
子どもは、自分が何ものであるか、自分にはどのような学習スタイルが向いているか、など、自分に対する概念がまだ確立されていない。大人や教師などに依存する存在である。
一方で、大人は、自分が何もので、どういう学習スタイルで学ぶことが一番合っているか、など自分に対する概念が明確にある。だから自分を主導できる。そこで、学習においては、子どもには、教師など教育者が教えるというスタイルになりがちだが、大人の場合は、自分で目的などを定め、自分のスタイルに合った学習ができるよう、教える側は伴走するようなスタイルが望ましい。
経験の違い
子どもの経験は、限られており、大人や教師など教える側が経験したことを教材としてまとめられたものを子どもは学ぶ。
大人は自分自身の経験を豊富に持っており、その経験を教材にしやすい。だからこそ、子ども以上に過去の経験を教材にすることもできるし、学習方法においても双方向や参加型のアプローチでの学習が向いている。発問をしたり、ロールプレイやディスカッション、過去のあるいはその場での経験を内省し、対話によってより理解を深めたりするような学習方法は、子どもよりも大人のほうがより向いている。
学習へのレディネスの違い
子どもは、心身の発達と学習内容のレベルが合致している。学習と成熟度合いは、ある科目などを学習するのに耐えうる年齢に達していることを見極めるという点で関連がある。
一方、大人の学習内容は、年齢で決まるわけではない。たとえば、30歳になったので「リーダーシップ」を学ぶということはない。年齢ではなく、社会的な立場や役割、ニーズなどに基づいて学習するものである。たとえば、リーダーに任命されたので、リーダーシップやコーチングを学ぶといったことはその一例である。
学習への方向づけ
子どもの学習は、基本的には将来のためのものである。いつか使う情報を学ぶことから、教科中心となる。
一方、大人は、今すぐ必要としていることを学ぶ。いつでも解決すべき課題が中心にある。たとえば、プロジェクトマネジメントを上手に行うことで、効率のよい効果的なプロジェクト運営が必要だからこそ、”今“プロジェクトマネジメントを学ぶのである。
まとめ
ざっくりと解説しましたが、これを読むと、「子どもでも経験を教材にできるよね」「自分で目標を定めて学習を進めるのは子供だってありうるよね」「大人というけど、新入社員研修って、今すぐ必要としていることを学ぶとか限らないし、自分でニーズを自覚していない状態で学習しなければならないこともありますよね」と思う部分はあるはずです。
ですが、ここでお伝えしたいのは、ここで述べられている「大人の学習」について、私たちはそれを意識して人材育成に携わっているだろうか、という点です。
ー 企業における研修で、受講者を「一人前の大人」として扱い、尊重しているだろうか
ー 受講者の自己主導型で進む力に伴走できているだろうか
ー 受講者が経験し、自ら学んでいけるよう、双方向の進め方、経験が学びになるような演習の設計と進行をしているだろうか
ー 受講者がどのような仕事をしていて、社会的に求められていることは何かを把握しているだろうか
ー 受講者がたった今解決したいと思っている課題を理解した上で、学びの支援をしているだろうか
ー 今すぐ必要としていることを学べるよう、何が必要なのかに耳を傾けているだろうか
ー 何が必要としているかを、受講者がもし言語化できていなければ、取り組むべき課題を引き出すことから始めているだろうか
私たち講師も部下育成に関わるマネージャやリーダーも、若手社員の成長に伴走するOJTトレーナーもこういう問いを自分に向ける必要があると思うのです。
私たちの「学ぶ」経験は、多くが「学校教育」のそれに偏っています。したがって、放っておくと、かつて自分が幼い頃、学校で教わったような教育、人材育成を企業内でも行ってしまう可能性があります。
「成人学習の考え方」を押さえておくことは、一人ひとりを尊重した上で、学習、あるいは、成長の支援をするために、伴走者側のマインドと言動を整えるのに役立つはずです。
おすすめトレーニング
質の高い研修を提供するための知識とテクニックを学び、研修の現場で実施・応用できる「教える技術の強化」を目指します。成人学習に基づき、事前準備、講義の開始から展開の仕方、受講者への効果的な指示の出し方、視聴覚資料の作成方法、時間管理、扱いにくい受講者にどう対応するか、など、研修の準備から実施まで幅広く網羅しています。高い学習効果を上げるために、4日間10名様定員での、実践的なトレーナー養成を行います。
あわせて聞きたい
米国で、「トレイン・ザ・トレーナー」の素となる研修を受講した時の衝撃や気づき、学びを講師の田中淳子が語っています。こちらも合わせてお聴きください。
#008 アメリカ人の学習スタイルに目から鱗がたくさん落ちた