
PMに必要なロジカルシンキング|実務での活用と実践方法
プロジェクト・マネジャー(PM)は、計画の作成や進捗管理に加えて、プロジェクトで発生する問題への対応やステークホルダーとの調整も担います。
プロジェクトでは、作業者、顧客、ベンダー、スポンサーなどから、異なる立場・言葉・粒度で情報が寄せられます。多数の作業や制約が関係するなかで、これらの情報を整理し、必要な判断と行動につなげるために役立つのがロジカルシンキングです。
本記事では、PMにロジカルシンキングが必要とされる理由と、情報整理、問題解決、意思決定、コミュニケーションにおける活用方法を解説します。
【参考】今回のテーマに関連するプロジェクトマネジメント研修
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【PDU対象】【現場体験型】業務改革プロジェクトを成功に導く問題解決力
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【PDU対象】【現場体験型】進捗会議のツボ
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【PDU対象】【現場体験型】PMと営業のための企画・提案力
目次
PM(プロジェクト・マネジャー)にロジカルシンキングが必要な理由
ロジカルシンキング(論理的思考)とは、情報や主張の関係を整理し、筋道立てて考えることです。
PMの役割はプロジェクトの目的達成に向けて、関係者と協力しながらプロジェクトを前へ進めることです。
そのためには、プロジェクト内で何が起きているのかを把握し、問題があれば原因や影響を検討し、必要な判断を得て次の行動へつなげなければなりません。
しかし、プロジェクトには多くのステークホルダーが関わります。顧客、スポンサー、利用部門、プロジェクトメンバー、協力会社など、それぞれの立場によって、持っている情報や重視することは異なります。
また、一つの作業の遅れや仕様変更が、後続工程、コスト、品質、担当者の負荷などへ影響することもあります。PMは、納期、予算、品質、スコープ、人員、契約条件といった複数の制約も考慮しなければなりません。
さらに、判断に必要な情報が最初からすべてそろっているとは限りません。関係者からの報告には、確認できた事実だけでなく、本人の解釈や予測、要望が含まれている場合もあります。
このように、多数の関係者、作業、制約、不確実性が存在するプロジェクトでは、一部の情報や感覚だけをもとに判断することは困難です。
そこで、複雑な情報を分解し、相互の関係を捉え、筋道立てて考えるロジカルシンキングが役立ちます。
ただし、ロジカルシンキングはPMの仕事そのものではありません。情報整理や認識合わせを目的化せず、不要な対立や手戻りを抑え、プロジェクトを推進するための手段として活用することが大切です。
PMのロジカルシンキングが情報整理・問題解決・説明に役立つ理由
PMにとってのロジカルシンキングは、特定の場面だけで使用する分析手法ではありません。
関係者から情報を得て、その内容を理解・整理し、プロジェクトへの影響を考え、必要な判断や行動につなげる一連の過程を支える思考方法です。
ここでは、テスト工程に遅れが発生したプロジェクトを例に、PMの実務でロジカルシンキングがどのように役立つのかを見ていきます。
PMの情報整理:ステークホルダーから集まる情報を論理的に整理する
テスト工程に遅れが発生したとき、PMのもとにはステークホルダーからさまざまな情報が寄せられます。
例えば、テスト担当者は「想定より不具合が多く、再テストが終わらない」と報告するかもしれません。
開発担当者は「途中で仕様変更への対応が追加された」と説明し、ベンダーは「契約範囲外の作業が発生している」と主張する可能性があります。
一方、利用部門は「予定しているリリース日は変更できない」と要望し、スポンサーは「追加費用が必要なら、金額と根拠を示してほしい」と求めるかもしれません。
いずれも同じプロジェクトについての発言ですが、立場によって見ている範囲や関心、使用する言葉の粒度が異なります。
PMは、これらの情報をそのまま受け渡すのではなく、確認できた事実、関係者の意見や解釈、要望、制約、仮説、未確認事項を区別しながら整理します。
例えば、「不具合が多い」という報告だけでは、何と比較して多いのか、どの種類の不具合が増えているのか、再テストにどの程度の時間が必要なのかまでは分かりません。「仕様変更が原因」という説明も、確認が済んでいなければ、事実ではなく現時点での仮説として扱う必要があります。
ロジカルシンキングは、関係者の発言を無理に決められた分類へ当てはめるためのものではありません。異なる立場から寄せられた情報を整理し、不足している情報や追加で確認すべき論点を明らかにするために役立ちます。
PMの問題解決:原因と影響を分けて考える
情報を整理するだけでは、問題解決にはつながりません。PMは、情報同士のつながりや矛盾を確認し、何が起きているのか、なぜ起きているのか、プロジェクトへどのような影響があるのかを考えます。
例えばテスト工程の遅れについても、「再テストが終わらない」という現象だけを見て、人員不足が原因だと決めつけることはできません。仕様変更によってテスト項目が増えた、特定の機能に不具合が集中している、テスト環境が安定していない、担当者間で完了条件の認識が異なる、といった可能性もあります。
複数の要因が関係している場合もあるため、どこまでが確認済みの事実で、どこからが仮説なのかを区別しながら原因を検討します。同時に、問題がテスト工程内で解消できるのか、後続作業やリリース日にも影響するのかを確認します。
対応策についても、人員を追加する、作業の優先順位を変更する、リリース対象を調整するなど、複数の選択肢が考えられます。それぞれの効果、コスト、リスク、実現可能性を比較し、プロジェクトの目的や制約に合う案を検討することが大切です。
ロジカルシンキングによって、自動的に正解が得られるわけではありません。しかし、現象、原因、影響、選択肢を分けて考えることで、追加で確認すべきことや、判断が必要なことを明確にできます。
【参考】
問題の報告が遅れる背景や、PMが多忙になった場合に起こりやすい課題については、
プロジェクトマネジメントで起こりやすい問題と対策
で紹介しています。
PMの意思決定:判断の根拠を分かりやすく伝える
PMが自ら判断する場合もあれば、スポンサー、顧客、責任者などの決定権者へ判断材料を提示する場合もあります。
特に決定権者へ報告や提案を行う際は、結論や推奨案だけを伝えても、適切な判断を得られるとは限りません。なぜその結論に至ったのかを理解できる情報が必要です。
例えば、テスト工程の遅れへの対応についてスポンサーへ説明する場合は、次の内容を明確にします。
- 何について判断を求めているのか
- どの範囲を分析し、どの時点のデータを使用したのか
- どのような前提で検討したのか
- どのような選択肢を、どの基準で比較したのか
- 推奨案を選んだ根拠は何か
- 現時点で何が未確認なのか
- 判断によってどのような影響が想定されるのか
分析範囲、前提、根拠が共有されていれば、決定権者はPMの説明を正確に理解しやすくなります。
そのうえで、「別の対応案は検討したのか」「このデータには特定の範囲が含まれていないのではないか」といった具体的な質問や指摘もできます。
反対に、結論だけを伝えると、決定権者はPMがどの範囲まで検討したのかを確認できません。説明に使用した情報や判断基準を示すことは、説得のためだけでなく、PMの考えを正確に理解してもらうためにも重要です。
PMのコミュニケーション:相手に応じて情報を組み替える
プロジェクトでは、スポンサーなどの決定権者、計画を管理する担当者、実際に作業を行う担当者で、必要な情報の内容と粒度が異なります。
決定権者には、プロジェクトの目的や計画への影響、対応案ごとの費用とリスク、判断期限などを示します。
計画を管理する担当者には、後続工程への影響、スケジュールやリソースを変更する必要性を共有します。
作業者には、決定事項によって担当作業の何が変わるのか、何を優先するのか、追加で何を確認するのかを具体的に伝えます。
PMは、整理した情報をそのまま全員へ伝達するのではなく、相手が理解・判断・行動できる形へ組み替えて伝える必要があります。
ただし、相手によって説明を変えることと、都合よく内容を変えることは異なります。伝える情報の量や表現が違っても、もとになる事実、前提、因果関係は一貫していなければなりません。ロジカルシンキングは、説明全体の筋道と一貫性を保つために役立ちます。
【参考】言葉の定義や対象範囲のずれがプロジェクトへ与える影響については、
ステークホルダーとの認識相違を防ぐ考え方
で具体例を紹介しています。
PMがロジカルシンキングを活用するときの注意点
ロジカルシンキングは、PMの情報整理や問題解決、説明に役立ちます。ただし、筋道立てて考えることだけで、プロジェクトを推進できるわけではありません。
論理的でも事実が正しいとは限らない
前提から結論までの筋道が通っていても、使用した数字や情報が誤っていれば、適切な判断にはつながりません。例えば、「不具合件数が先週の2倍になった」という報告も、集計対象、期間、不具合の深刻度、重複の扱いが異なれば、単純には比較できません。
数字やデータを根拠として使う場合は、その定義、対象範囲、集計条件、情報源を確認する必要があります。
生成AIを利用して情報収集や資料作成を行う場合も同様です。ロジカルシンキングによって、回答内の矛盾や、根拠と結論のつながりを検討することはできます。しかし、論理が通っているように見えても、引用された数字や制度、事例自体が誤っている可能性があります。重要な情報については、企業の公式サイトや公的機関の資料など、信頼できる情報源との照合が必要です。
ロジカルシンキングだけで合意形成はできない
ロジカルシンキングは、説明の筋道や一貫性を支えます。
ただし、筋道立てて説明すれば、必ず相手の理解や合意を得られるわけではありません。
相手の知識、関心、懸念などを理解するためには、対話や傾聴を通じたコミュニケーションも重要です。また、さまざまな意見を整理し、合意形成につなげるファシリテーションも欠かせません。
意見の対立を完全になくす必要はありません。前提、言葉の定義、判断基準などのずれによって生じる不要な対立を減らし、残る意見の違いを具体的に話し合える状態にすることが大切です。
プロジェクトに応じて思考法を使い分ける
プロジェクトの規模、複雑さ、開発手法、組織、契約などによって、必要な情報や分析の深さは変わります。小さな問題に時間をかけて詳細な分析を行うことが適切とは限りません。一方、プロジェクトの目的や主要な計画を左右する判断では、分析範囲、前提、根拠を丁寧に確認する必要があります。
フレームワークを使うことや資料を完成させること自体を目的にせず、必要な判断と行動に応じて、考え方の深さや伝える情報を調整しましょう。これらの考え方は、PMだけでなく、複数のプロジェクトを支援するPMOが情報を整理し、関係者へ共有する場合にも活用できます。
PMの問題解決に役立つロジカルシンキングのフレームワーク
ロジカルシンキングには、PMの情報整理や問題解決に役立つフレームワークや思考法があります。
・MECE:
情報や選択肢を一定の切り口で整理し、重複や漏れを抑えるために役立ちます。ただし、何を全体とするか、どの切り口で分類したかを明確にすることが重要です。
【参考】
MECEとは?意味・具体例・使い方をわかりやすく解説
・ロジックツリー:
複雑な問題を分解し、原因や対応策を整理する際に利用できます。目の前に現れている現象をそのまま原因と決めつけず、複数の可能性を検討する助けになります。
・演繹法、帰納法:
演繹法は、ルールや前提を個別の事象へ当てはめて結論を導く考え方です。帰納法は、複数の事実や事例から共通点を見つけ、傾向や仮説を考える際に使われます。
・ピラミッドストラクチャー:
結論と根拠の関係を整理し、相手に分かりやすく伝えるために役立ちます。スポンサーへの報告や提案では、結論を先に示し、その理由や根拠を構造化して説明できます。
これらは、使用すれば自動的に正しい答えが得られるものではありません。PMは、プロジェクトの目的や状況に合わせて使い分け、必要に応じて前提や情報源を確認することが大切です。
PM向け研修で問題解決力とプロジェクト推進力を身につける
ロジカルシンキングの知識を得るだけでなく、プロジェクトを想定した演習を通じて、情報収集、問題分析、説明、合意形成を経験することで、実務への活用方法を学びやすくなります。
トレノケートでは、PMの課題や役割に応じた研修を提供しています。
問題解決・合意形成を学ぶPM向け研修
【PDU対象】【現場体験型】業務改革プロジェクトを成功に導く問題解決力 では、業務改革プロジェクトのケーススタディを通じて、現状調査、因果関係分析、解決策の検討、費用対効果、ファシリテーション、合意形成を学びます。
受講者が異なる部門の立場を演じるため、利害の異なるステークホルダーから情報や意見を引き出し、問題解決を進める過程を実践的に経験できます。
進捗会議の情報収集・問題発見を学ぶPM向け研修
【PDU対象】【現場体験型】進捗会議のツボ では、進捗会議を通じて必要な報告を得る方法や、質疑応答から問題を発見し、対応につなげる方法を学びます。
問題のある進捗報告を題材にしたロールプレイを行うため、報告をそのまま受け取らず、質問によって必要な情報を収集したいPMに適しています。受講には、PMBOK®ガイドなどのプロジェクトマネジメントに関する基礎知識が必要です。
ITサービスの企画・提案に関わるPMと営業向け研修
【PDU対象】【現場体験型】PMと営業のための企画・提案力 は、ITサービスビジネスの企画・提案段階に関わるPMと営業担当者を対象とした研修です。
ケーススタディを通じて、企画・提案段階に潜む失敗要因、PMと営業の役割、目的志向のプレゼンテーション、プロジェクトとビジネスのリスクなどを学びます。一般的なPM研修ではなく、ITサービスの企画・提案段階で営業と連携する方に適した内容です。
このほかにも、プロジェクトマネジメントの基礎からPMP®資格取得、実践的なプロジェクト管理まで、さまざまな研修をご用意しています。
ご自身の目的や課題に合った研修は、
プロジェクトマネジメント研修
からご確認いただければと思います。
まとめ|PMのロジカルシンキングは判断と行動を支える
プロジェクトでは、多数のステークホルダーから、異なる言葉や粒度で情報が寄せられます。また、多くの作業、制約、不確実性が相互に関係するため、一部の情報や感覚だけで判断することは困難です。
ロジカルシンキングは、関係者から得た情報を整理し、原因や影響を捉え、必要な判断と行動につなげるために役立ちます。
特にスポンサーなどの決定権者へ説明する際は、結論だけでなく、分析した範囲、使用したデータ、検討の前提、判断の根拠、未確認事項を共有することが重要です。一方、作業者には、決定事項を具体的な行動へ移せる形で伝える必要があります。
相手によって説明の内容や粒度を変えても、もとになる事実や論理の一貫性は保たなければなりません。
PMの役割は、判断材料を整理すること自体ではなく、プロジェクトの目的達成に向けてプロジェクトを前へ進めることです。ロジカルシンキングを、傾聴、コミュニケーション、ファシリテーション、専門知識や経験と組み合わせ、関係者の判断と行動につなげていきましょう。




