毎年、各社の新入社員研修を担当しますが、イマドキの新入社員は、総じて真面目で前向きです。
ビジネスマナーなど研修の初期段階で行う研修を担当することが多い私が新入社員と出会うのは、入社数日後の「社会人になりたて」時点ということがほとんどです。 まだまだ緊張している4月初旬の新入社員と接していると、体験談に対する食いつきがとても強いことに気づかされます。
提案活動から製造・納品までの一連の仕事の流れを疑似体験できる研修を実施したときのことです。
ビジネスマナーや顧客との関係構築についての講義と演習の合間に私自身の体験談も話すようにしました。新入社員時代に上司に「笑顔で挨拶していない」と叱られた話、受付で事前にお知らせした人数より訪問して受付の方に叱られた話など、具体的で生々しい出来事を紹介しました。新入社員の皆さんは、こういった「体験談」をとても真剣に聞いてくれます。
研修レポートにも「体験談をもっと聞かせて」というリクエストが多いのには驚きました。親世代の講師の体験談など、「関係ない」「つまらない」と思うのではと危惧していましたが、真剣に耳を傾け、ノートをとるのです。
ある企業で行った「2年目の先輩を交えた懇親会」での出来事です。
新入社員は、2年目社員に様々な質問をし、熱心にメモを取っていました。
「今はどんな仕事をしているのですか?」
「週末の過ごし方は?」
「どんな勉強をしていますか?」
「残業は多いですか?」
などあらゆることを尋ねます。
「身体を壊したことはありますか?」といったものもありました。 新入社員は「"ITエンジニアは身体を壊して一人前"と聴いたことがあるので」と真顔で添えました。 先輩は、「私だけじゃなくて、誰も身体壊したりしていませんよ」と答えていました。
新入社員にしてみれば、「仕事とはどんなに大変なのか」「辛いのだろうか」と多くの不安があるのでしょう。そんな中で先輩が、明るく楽しく自分の仕事を語っていたことに、安心できたようです。彼らは後日、レポートにはこんなことを書いていました。
後輩は、先輩が明るく堂々と自分の仕事を語る姿を見て、不安を払拭できたようです。
社会人になったばかりというのは、多くの不安や疑問を抱えています。
講師が、実務での体験を話すと、「そういうことがあるんだな」と講義内容と実務のイメージを結びつけるのに役立つようです。若手の先輩社員が語る現場の話は、「数年後の自分」を疑似体験できるよいきっかけにもなります。
日常生活で年長者から話を聞く機会は、減っています。だからこそ、どんな話でも新鮮に映るのかもしれません。体験談、現場の話をどんどん聞かせることが、先輩の仕事の一つなのだと思います。
ただし、体験談にはタブーもあります。「自慢話」と「お説教」です。
いくら体験談だとは言え、「だから私はこんなに立派になった」とか「私もこうしてきたのだから、キミたちもこうしなければならない」といった話では、「そんなこと言われても時代が違う」、「先輩と私は違う」などと思い、気持ちが引いてしまいます。「自慢話」と「お説教」を避け、純粋に自分の体験談を話す。成功談はさらっと、失敗談は、臨場感を持って語るとよいようです。
新入社員が配属されるのを楽しみ待っている先輩の皆さん、後輩に語れる「体験談」を今のうちに整理しておいてはいかがでしょうか?
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