デジタル技術の進化により国内外で注目を集めているDX(デジタルトランスフォーメーション)。日本でも業界を限定せず、多くの企業が推進を図ろうとしている取り組みです。DXの推進を活発化させるための対策として、DX認定制度が作られました。
本記事では、企業がDX認定事業者になることで受けられる恩恵や代表的なDX認定事業者、DX認定事業者になるための取り組みによるメリット、認定を受ける際の注意点などを紹介します。
企業がDX認定事業者になると、ビジネスで活躍の場が広がる可能性があります。具体的には、新たな事業に着手できたり他業界との交流につながったりすることが挙げられます。
経済産業省が示すDXの定義には「企業が激しく変化するビジネス環境においてデータやデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを満たすこと」とあります。あわせて、「製品やサービス、ビジネスモデルにイノベーションを起こし、業務や組織、プロセス、企業文化・風土を変革することで競争上の優位性を確立すること」ともいわれています。
つまり、DX認定事業者になるためにDXを進めると、業務に対して一度見直しを行うこと企業内の業務や製品・サービスの変革が可能です。企業の事業にイノベーションが起こることで事業の幅が広がるとともに、企業間の競争で優位になれるでしょう。
DX認定事業者になると、DX推進ポータルの「DX認定制度 認定事業者の一覧」で企業情報が公開されます。経済産業省からDXや働き方改革に協力的な企業として認められることで、顧客や取引先企業からの信頼につながる可能性もあります。
DXに積極的な企業として周囲にアピールすることで、社会的信用はもちろん、企業価値やブランドイメージの向上も期待できます。
DX認定制度 認定事業者の一覧は、企業規模に関係なく平等に社名が記載されているため、大企業の隣に自社の社名が記載されればより企業の存在をアピールできるメリットもあります。
また、DX認定を受けるとDX事業者であることをPRするためのロゴマークが使用できます。HPやパンフレットに掲載することでさらにDX推進を図っている企業としての宣伝が可能です。
DX認定事業者になると、DX投資促進税制の税額控除を受ける権利が与えられます。
DX投資促進税制とは、企業が変革を進めるために導入するデジタル技術に対しての税額控除が受けられる制度で、デジタル技術への投資額の特別償却または税額控除が認められます。たとえば、DX推進に必要なソフトウェアや関連機器などの投資額に対しては、3%もしくは5%の控除、または30%の特別償却が可能です。
DX認定を受けておけばデジタル技術を導入する際のコストを抑えられます。費用面の問題が軽減されるためスピーディな導入が可能となり、急速に変化を続けるビジネス環境に後れをとることなくチャンスを掴めます。
ここからは、DX推進ポータルに掲載されているDX認定事業者の社名と取り組み内容を5つ紹介します。
DX認定事業者になりDXを進める上で具体的な案が浮かばない場合は、他の企業が取り組んでいる内容を参考にするのもおすすめです。
同じ業界の事例はもちろん、ほかの業界の取り組みもアイディアのきっかけになるかもしれないためチェックすることをおすすめします。
株式会社資生堂では、2021年から2023年までの中長期経営戦略として、グローバルトランスフォーメーションのロードマップ作製やDXの加速を掲げています。成長基盤を再構築させるためにはデジタル変革が重点戦略の1つと考えており、Eコマース強化やデータ分析、デジタル人財獲得、組織体制強化、パートナー企業との協働を加速させています。
また、2023年から2025年の中期経営戦略では「Global No.1 Data-Driven Personal Skin Beauty & Wellness Company」というビジョンのもと、DXの継続強化を進めていくでしょう。たとえば、顧客データ活用によるサービス提供の深化、新たなビューティーテック体験の提供、ブランドと地域に根差したデジタル人財育成などへ積極的に取り組んでいます。
日清オイリオグループ株式会社では、持続的な成長と社会への貢献を実現するために策定した「日清オイリオグループビジョン2030」において、デジタル活用によるイノベーションや健康寿命延伸を重要な社会課題と位置づけています。ビジョンを実現するために「Marketing」「Technology」「Globalization」全ての分野で、デジタル技術を活用した情報基盤の整備とスマートファクトリーの実現を戦略として掲げています。
また、LINEチャットボット機能を搭載するDXツールを導入したことで従来の手法よりコストを約90%削減、作業時間を1/3まで短縮することに成功しました。そのほかにも、デジタル技術の導入により業務効率化を図り、社員が人にしかできない仕事に注力できるよう製造工場の自動化に取り組んでいます。
株式会社セブン-イレブン・ジャパンは、Google Cloud Platform(GCP)マネージドサービスによるレガシー再構築やAIによるデータ利活用や業務のデジタル化をNECと共に推進しています。AIによる発注支援、専用アプリによる商品提案などの導入を進めています。
また、お弁当やお惣菜の製造工場でも作業現場のDXに特化したSaaSを導入しました。以前までは、食品や機器の点検を壁に貼られた紙の帳票にペンで記入してチェックを行っており、その後エクセルに転記して報告書を作成していました。DXツールの導入により、点検時のチェックをスマホやタブレットのアプリを利用してすぐに共有できるようになっています。
ライオン株式会社では、次の3つの基本戦略をもとにグループ全体の企業変革に直結するデジタル戦略を推進しています。
・経営管理能力の向上
2022年5月に基幹業務システムを全面的に刷新しました。各種経営データをまとめてインフラを構築しています。業務を効率化させるとともにリアルタイムな情報から意思決定の精度とスピードアップを図っています。
・習慣づくりの拡大と進化
AIやロボットなどのデジタル技術とライオン株式会社の知見をあわせて口腔内の状態を可視化し、将来の状態の予測や製品開発プロセスの省力化による時間やコストの短縮を実現しています。
・組織の風土・文化の定着
現場で自立的にDXを推進できるよう高度なデジタル技術を持つDX人材と、事業とデジタル両方の知見をもち業務をつなぐハイブリッド人材の育成や採用に力を入れています。
公益社団法人箕面市シルバー人材センターでは、会員や職員に向けたDXの取り組みを実行できるセンター改革を進めています。また、業務の効率化を図るために事務作業の標準化やデータの一元化に取り組んでいます。たとえば、モバイルフォンを活用した入会や広報、会員サービスのオンライン化などです。
ここではDX認定を受けるために行う取り組みが企業にどのようなメリットをもたらすか紹介します。DX認定事業者になった後の恩恵だけではなく、認定のために企業のイノベーションを図ることで、プラスに働く要素もあります。
DXはデジタル技術の導入が目的ではありません。デジタル技術を導入した企業のあり方の変革が目的です。そのため、DX推進には企業の問題点の洗い出しが求められます。DX認定制度を受けるためには、審査の過程で自社の状況について自己診断し、課題を把握する必要があります。そのため、DX認定事業者を目指すことで自社の課題が整理されるでしょう。
たとえば、申請時に記載が必要な「DX認定制度 申請チェックシート」には、デジタル技術が社会や企業の競争環境に及ぼす影響を認識し内容を公表しているか、といった自社が行う取り組みを確認する項目があります。チェックシートに対する回答を進めていくと、自社のDXに対する課題が見えてくるでしょう。
DX認定事業者になると、DX推進ポータルの「DX認定制度 認定事業者の一覧」に企業の情報が掲載されます。そのため、DXに積極的に取り組んでいる企業として周囲から認知されやすくなるでしょう。近年、注目されているDX推進を図る企業として認知されれば、企業としての社会的信用や企業価値、ブランドイメージの向上も期待できます。
DX推進企業であれば、デジタル化が進まないために起こるとされている2025年の崖問題であるような経営上のリスクを回避できると考えられ、今後も安定した事業推進が図れるイメージを周囲から持ってもらえるでしょう。
また、顧客や取引先からの信頼だけではなく、人材確保のための採用においてもアピールポイントになります。積極的にDXに取り組み、業務効率化が進んでいて職場環境がよければ、求職者からもよいイメージをもってもらいやすいといえます。
中小企業がDX認定事業者になると融資の優遇を受けられるようになります。DX化に伴う設備投資に必要な資金を、日本政策金融公庫から基準利率よりも低い利率で支援してもらえます。たとえば、IT活用促進資金で融資を受ける際に該当する用途は以下のとおりです。
また、中小企業信用保険の特例を受けることも可能です。民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証が普通保険とは別枠で、追加保障や保証枠の拡大を受けられます。
ここからは、企業がDX認定事業者を目指す際の注意点を紹介します。
DX認定事業者は周囲へ積極的にDXに取り組んでいると認知してもらうことで企業の価値を高められる魅力があります。しかし、認定を受けるためのDX推進が上手くいかなければ審査に通らない可能性があるでしょう。DXに取り組む際のポイントを押さえてDX認定事業者を目指すことをおすすめします。
デジタル技術を用いてDXを推進するにあたり、ビジネスモデルの再構築や刷新が必要になるケースがあります。刷新するにあたって、まずはビジョンや経営戦略の再思考が欠かせません。DXに取り組んだ企業のゴールの姿を明確にすることで、導入するデジタル技術やこれからのビジネスモデルの形が見えてくるでしょう。
これまでのビジネスモデルのままだと、デジタル技術との相性が悪かったり適応していなかったりと、不都合が生じるリスクがあります。そのため、DX推進とあわせてモデルチェンジを行う方法がおすすめです。
突然デジタル技術を導入して事業の革新を図ろうとしても、従業員の心構えができておらずかえって負担となり、離職を招くおそれがあります。そのため、経営層が決定したDX推進時の経営戦略やビジョンの共有が欠かせません。「デジタル技術の導入がなぜ必要か「どのように業務を効率化してくれるか」など、目的と導入後のメリットなどを共有することで、デジタル技術に対する抵抗を減らせる可能性があります。
また、経営陣のみで決定し、周知しないまま進めると反感を買うため、ビジョンを共有して共に進んでいく意識を大切にします。また、ビジョンを共有すると方向性が定まるため、部署間で動きがバラバラになるリスクが減少します。
DX認定に向けて企業のDX化を進めていくためには、デジタル技術やITツールなどに知見のあるDX人材の確保が必要です。新たな人材の採用活動も大切ですが、少子高齢化による労働人口の減少が懸念される現代においては、社内で働いている人材の育成も欠かせません。
自社内でDX人材の育成を行う場合、ノウハウの蓄積がなければ外部の研修ソリューションを利用するのも1つの手段です。DXに関する専門的な知識を持っているプロフェッショナルが講義や講習を行うため、知識や技術を身につけやすいといえます。
DX認定事業者になることは、顧客や取引先、消費者に対してDXに積極的に取り組んでいる企業としてのアピールができるだけではなく、申請の過程で自社のDX課題の洗い出しにも役立ちます。
DXを推進しDX認定事業者になるためには、ビジネスモデルの刷新や社内でのビジョン共有が欠かせません。また、DX化には専門的な知識を持つDX人材が必要なため、不足している企業は新たな人材の採用や現社員の育成が必要です。
DX人材を育成するにあたって、企業内に体制が整っていない場合もあるでしょう。トレノケートでは多様なDX人材の育成研修を提供しています。専門的な知識を身に付けられるため、DXへの取り組みを始めてDX認定事業者を目指す企業におすすめです。DX推進でICT導入や働き方改革をスムーズに進めたい、自社の人材をDX人材に育成したいと考えている方は、ぜひご利用ください。