近年、リスキリングの広がりから学び直しを行う方が増えています。しかし、企業全体で導入する場合、大きな費用がかかるため助成金を使いコスト削減することがおすすめです。こちらでは、リスキリングの助成金に関する情報を解説します。
※人材開発支援助成金は、申請できる企業の要件がこまかく定められています。また、人材開発支援助成金を申請できる研修・eラーニングは、受講者の業務内容等により異なります。制度の詳細や、貴社が申請可能であるかにつきましては、厚生労働省のWebサイト、または各都道府県労働局の担当窓口にてご確認ください。
[厚生労働省] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html
目まぐるしく変化する社会において、企業が対応していくためには、従業員一人一人のスキルアップが欠かせません。人材育成のためにリスキリングを導入しようと思っても、コストが大きくなかなか取り組みに踏み出せない企業も多いでしょう。コストを抑えてリスキリングを実施するためには、人材開発支援助成金の活用がおすすめです。こちらでは、助成金の目的や仕組みを紹介します。
人材開発支援助成金とは事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合などに、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。
助成金を受給するための主な要件は以下の3つです。
・雇用保険の適用事業所であること
・支給審査への協力
・期間内の申請
また、人材開発支援助成金と混同されやすい仕組みとしてキャリアアップ助成金がありますが大きな違いは「対象者」です。人材開発支援助成金の対象者は正規雇用労働者であるのに対して、キャリアアップ助成金の対象者はアルバイトやパート、派遣労働者などの非正規雇用労働者です。
人材開発支援助成金は「正規雇用労働者のスキルを向上させ、企業を永続的に発展させていくこと」を支援目的にしているのに対して、キャリアアップ助成金は「非正規雇用労働者が正規雇用労働者になるための支援」を行うといった違いがあります。
企業が事業の推進を図るため、従業員に対してリスキリングを行いたいと考えていても、資金の捻出が難しい場合もあるでしょう。個人で学び直しをするのも費用の負担が大きいため意欲の高い人だけが行い、従業員の間で技術やスキルの差が生じてしまうおそれがあります。企業がコストを抑えつつ従業員全体のリスキリングを進めていくためには、人材開発支援助成金の活用が重要です。
助成金を使って企業全体がリスキリングに取り組めれば、従業員同士で学び直しをする人としない人の差が生まれにくく、全体的な技術やスキルの向上が見込めます。予算を設定してリスキリングを進めていくためにも、助成金の利用を検討しましょう。
厚生労働省が創設した人材開発支援助成金は4種類あります。こちらでは、4つの助成金の詳しい内容を紹介します。
業務にかかわる知識や技能を習得してもらうため計画に沿って訓練を実施した場合、訓練にかかった経費や訓練期間中の賃金の一部を支援する助成金です。対象者に業務にかかわるプラスアルファの技術を身に付けてもらうことで、業務の効率化が期待できます。人材育成支援コースに含まれている主な訓練は以下の3つです。
・人材育成訓練
・認定実習併用職業訓練
・有期実習型訓練
それぞれに助成金を受け取るための要件が決められています。たとえば、人材育成訓練ではOFF-JTによる事業内訓練もしくは事業外訓練が10時間以上必要です。認定実習併用職業訓練と有期実習型訓練では訓練実施期間の定めがあります。認定実習併用職業訓練では6か月以上2年以下、有期実習型訓練では2か月以上の訓練期間が必要です。
※OFF-JTとは、実際に働く現場を離れて行う教育訓練を指します。一方でOJTは実際に働く職場で業務を通して訓練を行うことです。
企業で教育訓練休暇制度を導入し、従業員が該当する制度を利用して自ら訓練を受けた場合に事業主に対して支払われる助成金です。教育訓練休暇とは、従業員が業務に関連する知識や技術を身に付ける機会を確保するために休暇を与えたり、短時間勤務制度を取り入れたりと業務に関連した能力の開発を自発的に進めるための休暇を指します。
助成金を受け取るための主な要件は以下のとおりです。
・1日単位で取得可能とすること
・3年間のうち5日以上取得可能な教育訓練休暇制度の計画を立て、就業規則などに施行日を記録しておくこと
申請を通過すると経費助成として30万円が支給されます。
デジタル人材や高度人材を育成するための訓練、従業員が自発的に行う訓練、定額制訓練などを実施した企業に対して支払われる助成金です。人への投資促進コースに含まれている主な訓練は以下の5つです。
・高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練
・自発的職業能力開発訓練
・情報技術分野認定実習併用職業訓練
・長期教育訓練休暇等制度
・定額制訓練
上記訓練ごとにさらに細かく要件が設定されています。
たとえば、高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練では企業の要件として「主たる事業が日本標準産業分類の大分類の情報通信業」「産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定を受けていること」「DX認定を受けていること」などがあります。そのほかの訓練にも細かい要件が設定されているため、利用を検討している場合は事前に要件を確認しましょう。
企業が新規事業を立ち上げるといった事業展開時に、雇用する従業員に対して新しい分野のスキルや知識を習得させるために行う訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練の経費や訓練期間中の賃金として一部の費用を支援する助成金です。要件としては以下の内容が設定されています。
・OFF-JTによって実施する
・実訓練時間数が10時間以上
OFF-JTには一定の条件を満たす事業内訓練と事業外訓練が含まれます。支給金額は中小企業の場合、経費助成が75%、賃金助成が1人1時間あたり960円です。
リスキリングに活用できる助成金は、人材開発支援助成金以外にもさまざまあります。その1つがDXリスキリング助成金です。こちらでは、DXリスキリング助成金の概要や要件、対象者などを紹介します。
リスキリングを導入する上でコストの削減を行いたい方は、ぜひこちらの助成金も参考にしてみてください。
参照:DXリスキリング助成金
DXリスキリング助成金は、公益財団法人東京しごと財団主催の助成金です。都内中小企業が従業員に対して、民間の教育機関が提供するDXに関連する職業訓練を実施する際にかかる経費を支援する助成金です。外部講師を招いて実施する講義やeラーニングといったインターネット上で行われる訓練、オンライン会議システムを利用した訓練などが該当します。支給金額は上限64万円の中で助成対象経費の3分の2まで支払われます。
DXリスキリング助成金の申請対象者は中小企業や個人事業主です。業種分類によって資本金または出資額の範囲や従業員数の定めが異なるため事前に確認しましょう。
DXリスキリング助成金の申請要件は以下のとおりです。
・都内に本社や事業所の登記があること
・訓練にかかる経費を従業員が負担していないこと
・助成を受ける予定の訓練について国や地方公共団体からの助成を受けていないこと
助成対象となる受講者にも条件が設定されています。
・助成金を申請する中小企業が雇用する従業員
・常時勤務する事業所の所在地が都内である従業員
・訓練時間の8割以上の出席がある従業員
対象となる経費は、訓練の受講料や教科書代、教材費、eラーニング実施に必要なID登録料、管理費、訓練に関するヒアリング料などです。
ここまでは、リスキリングの導入に利用できる助成金を紹介しましたが、費用を抑えるためには助成金のほかに補助金や給付金などがあります。こちらでは、助成金と混同されやすい補助金や給付金の概要や助成金との違いを紹介します。それぞれ受け取れる条件が異なるため、違いを把握して自社にあった支援を活用しましょう。
補助金と助成金はどちらも国や地方公共団体から支給される支援金を指しています。財源は公的な資金のため誰でも受け取れるわけではありません。支援を受けるためには一定の条件を満たした上で申請や審査を受けて通過する必要があります。助成金は要件を満たせばほとんどの場合で受給が可能です。
しかし、補助金は採択予定件数があらかじめ決められている場合が多いため、条件を満たした企業すべてが受給できるわけではありません。たとえば、採択予定件数が30件の補助金に対して60社の企業が申請すれば、半数の30社は審査で落ちてしまうのです。補助金は一般的に1か月程度の公募期間を設けています。期間内に必要書類を揃えて申請し、内容から妥当性や必要性をアピールできなければ採択には至りません。補助金を利用するためには申請時に提出する書類の内容が重要といえるでしょう。
助成金は、景気悪化により雇用を確保できない企業や労働環境が整備できない企業を対象に雇用や労働環境、労務問題などの改善や整備を支援するためにあります。助成金を受給するためには実施計画を作成し、厚生労働省の認可を受けてから要件を実施します。その後、待機期間を経てから審査が行われるため、時間がかかる点に注意しましょう。
補助金は計画申請後に採択を受ける必要がありますが、助成金には採択がありません。つまり、助成金は要件を満たせば原則支援を受けられるのです。リスキリングを導入する際に必ず支援を受けたい場合は、補助金よりも助成金をおすすめします。
給付金の中には個人向けのものもあります。たとえば、教育訓練給付制度です。こちらは厚生労働大臣が指定する教育訓練を終了したタイミングで受講費用の一部が助成される制度です。企業ではなく個人を対象として、主体的な能力開発やキャリア形成を支援し雇用の安定と就職の促進を図ることを目的としています。
教育訓練給付制度は以下3つに分かれています。
・一般教育訓練
・特定一般教育訓練
・専門実践教育訓練
リスキリングの導入に対して助成金が受け取れる背景にはどのような企業の課題があるのでしょうか。こちらでは、日本社会においてリスキリングが重要視されている理由を解説します。
近年、日本に限らず世界中で社会のデジタル化が急速に進んでいます。世界中で進むデジタル化ですが、DX白書2023にも記載があるように日本企業は他国と比べてDXへの取り組みペースが遅いといわれています。要因としては、少子高齢化による労働人口不足が相まって、DXに対応する人材が不足していることが挙げられるでしょう。
また、企業の一般従業員だけではなく、経営層のITに関する理解や積極性の低さからDXが遅れている点も見逃せません。すべての従業員が積極的に学び直しを行うことでDXが推進されることからもリスキリングに対して助成金を設けています。
企業がリスキリングをスムーズに導入して、従業員のスキルや技術の向上を図るためには、以下3つのポイントをおさえましょう。
リスキリングでは従業員の主体性を維持するために、従業員のモチベーションに配慮しましょう。従業員がリスキリングを始めようと思ったとき、通常業務に加えて知識やスキルを身に付けるための勉強時間を確保する必要があります。プラスアルファの作業が増えるため、業務においてストレスを抱える方もいるかもしれません。企業側で研修時間を設けたり、業務の振り分けを調整したりと従業員の負担を軽減し、リスキリングに集中して取り組める環境づくりが大切です。
リスキリングは学び直しを意味しており、新しい技術やスキルを身に付けることを目的に学習を行います。従来のOJTと混同されがちですが、OJTは既存業務のスキルアップを目的としています。そのため、新しい知識やスキルを身に付けるリスキリングとは異なる点を把握しましょう。
自社内でリスキリングを導入する際は、社内の人材を活用して完結することも可能ですが、専門的な知識やスキルをより深く学んでもらうためには、外部の力を借りることも必要です。リスキリングで獲得するのは新しいスキルです。つまり現在の企業内で不足している部分といえます。そのため、外部の研修コンテンツや講義を活用して、自社内にはない専門的スキルを身に着ける必要があります。
費用負担が大きいことからリスキリングの導入をためらっている企業は、助成金の活用がおすすめです。また、補助金や給付金など似た制度もありますが、申請条件や支払いまでの流れなどに違いがあるため、それぞれの特徴を把握して申請に進みましょう。
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