マーケティングにおいて、お客様を主語にして考えることが重要です。2つの例から、その重要性を紹介します。
ある会社の研修担当の方から次のような相談をされました。
「うちの技術者は、お客様にやたら機能やスペックを説明します。説明を聞いているお客様の表情から、どんどん関心がなくなっていくのが分かるにも関わらず、延々と話し続けていて困っています」
きっと、この技術の方は、一生懸命に自社の製品を説明されているのでしょう。しかし、お客様に製品の良さを理解してもらえなかったら、折角のビジネスチャンスを逸してしまいます。
お客様によっては、スペックや機能を伝えるだけでその性能の良さを理解できる人がいます。しかし、そうではない人もいます。特に意思決定をされる方の多くはこちらに入ります。
ここで押さえておきたいことは、機能とベネフィットの違いです。
機能とは、製品やサービスの属性または構成要素のことです。
ベネフィットとは、製品やサービスを使うことによって、得られるもの。機能やスペックを説明されても、顧客は「だから何?」「それは、私にとって(弊社にとって)どのように有益なのか?」と感じます。ベネフィットは、これらに対しての答えです。
機能とベネフィットの違いは、例えば次のようになります。
機能 |
ベネフィット
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衝撃を感知すると瞬時に膨らむ (自動車のエアバック) |
事故の際の安全、命の安全 |
車の開口幅 1,460mm ステップ高 348mm |
大きな開口と低床のステップのため、
乗り降りや荷物の出し入れが非常に楽
|
パンフレットを作成したり、サービスや商品を説明したりする際、お客様を主語にして考えてみてください。
お客様を主語にして考えることにより、新市場を築くこともできます。
洗濯時に使用する柔軟剤を例に挙げてみます。
今では一般的になっている香りつき柔軟剤。これが生み出された背景をご紹介します。
香りつきの柔軟剤が出てくる前は、下図の左側のように「価格」と「柔軟性」の2つの軸で商品開発を考えられていました。
しかし、洗濯をする人を調査・観察していくと、洗濯を単なる義務としての家事ととらえずに、楽しんでいる人がかなりいることが分かりました。そこで下図の右側のように、商品開発に「洗濯を楽しむ」という視点を取り入れました。当時アロマが流行していたこともあり、香りつきの柔軟剤が生まれたそうです。今や香りつき柔軟剤という大規模な市場が形成されています。
この例では、お客様を観察して分かったこと(お客様を主語にして考える)と、世の中のトレンドを取り入れて商品開発を行い、成功しました。
最後に、近代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラーと企業におけるイノベーションの研究における第一人者であるクレイトン・クリステンセンの言葉を紹介します。
フィリップ・コトラー
賢明なマーケターは、まだ満たされていない隠れたニーズを発見し、これを具体的に定義できる存在である
クレイトン・クリステンセン
顧客のジョブに焦点を当てることで、新たなニーズ、イノベーションのシーズが見えてくる
この2人の言葉に共通するメッセージは、お客様が認識している課題ではなく、お客様が認識していない課題を見つけることが重要ということです。
お客様の課題を見つけるためには、営業、製造、開発などを担当されている方も、マーケティングを学ぶことをおすすめします。