本記事は、レイモンド・チャンドラーの『さらば愛しき人よ』をオマージュし、ハードボイルド小説調でサイバーセキュリティにおける対策の考え方を、G(害虫)対策に見立ててご紹介します。(原案:三浦美緒 編集:村田亮治)
インシデントの防止や侵入された後の対応を少し身近に感じていただける、かもしれません。
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三日前の夜から、私はまともに眠れていない。
侵入された。それだけで十分だ。詳しく聞くな。私はもう、あの夜のことを思い出したくない。
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事件の翌朝から、私は戦闘態勢の見直しを始めた。
まず、外壁の点検だ。この部屋を守る最初の砦。大半の脅威はここで制することができる。
だが問題は、壁に入口を設けなければならないことだ。窓、ダクト、換気扇。空気を通し、光を入れ、人を動かすために、どうしても開けておかなければならない口がある。奴らはそこを知っている。いつだって、そこから来る。
次に、開いた口に番人を置いた。外向きの窓口には念入りに忌避スプレーをまいた。管理用に一時的に開ける裏口にも抜かりなく。玄関は特に念入りにやった。帰宅時の玄関が、いちばん怖い。そして定期的な噴霧は絶対に怠るな、と自分に言い聞かせた。去年、それで痛い目を見た。
それから、毒餌だ。奴らが好みそうな場所に、こっそり仕掛ける。来るなら来い。待っている。
防衛線は張った。だが、それで十分だとは思っていなかった。
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案の定、今夜も奴はやって来た。
侵入後の対応は、いつだって消耗する。
最初にやったのは、殺害スプレーで直接仕留めることだ。検知した標的を、この手で、個別に。やりたくない仕事だ。本当に、やりたくない。だがやるしかない。
それだけでは足りないと判断したとき、私は切り札を持ち出した。
部屋の隅まで煙が行き渡る。すみずみまで、残さず。これ以上のものはない。
だが代償がある。数時間、部屋を離れなければならない。それでも、やるしかないときがある。
並行して、粘着トラップも展開した。設置も撤収も速い。取り回しがいい。部屋には、これが要る。
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戦いが落ち着いたころ、私はリストを広げて、まだ足りないものを数えた。
開放した出入口を、人間だけが通れるようにしたい。奴らには通らせない。そういう仕組みが、どうしても要る。
侵入の検知と防衛を、自動化したい。できれば、来たときにその場で止めてほしい。
検知するだけでは、もう足りない。なにか方法はないものか。
通報一本で駆けつけてくれるプロがいれば、今すぐ契約する。サブスク契約で何度でも。スポット対応なら高くてもよい。そのくらいなら出す。出せる。
そして、大規模な攻勢に遭ったら。
私はそこだけ、何も書かなかった。ただ一行だけ残した。
部屋どころか、家を捨てる。
それが現実的な唯一の答えだ。
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三日前の事件のあと、私は死に物狂いで装備を買い足した。使い方を覚え、配置を覚え、タイミングを覚えた。だから今夜は、半狂乱になりながらも、手は動いた。
死闘が終わったとき、最後まで隣で戦い続けた相棒、次男が、汗だくの私を見て静かに言った。
「おかあさん、装備がめっちゃすごい」
私は何も答えなかった。
ただ、悪い気はしなかった。
先のストーリーは、サイバーセキュリティにおける対策の考え方を、G(害虫)対策に見立てて描いたものです。対応関係は以下の通りです。
※本記事におけるG対策とサイバーセキュリティの対応関係は、セキュリティ対策の基本的な考え方をわかりやすくお伝えするための例えです。実際の技術や対策と厳密に一対一で対応するものではない点をあらかじめご了承ください。
システム全体を脅威から保護する仕組みです。ただし、特定の条件の通信(窓・ダクト・換気扇に相当)を常時または一時的に開放しなければならないリスクが内在しています。
Webアプリケーションなどの公開システムへの攻撃を防ぎます。シグネチャ(攻撃パターンの定義情報)の更新を怠ると効果が失われます。
侵入しようとする脅威をおびき寄せ、その挙動を観察・記録する囮システムです。
現実のG対策では毒餌に殺虫の効果がありますが、サイバーセキュリティのハニーポットは「捕まえて倒す」のではなく、「泳がせて手口を知る」ための仕組みです。脅威を直接駆除する機能はありませんが、攻撃手法の分析や早期警戒システムとして活用されます。
検知した脅威を一件ずつ手作業で駆除します。確実ですが、できればやりたくない。本 当 に や り た く な い 。
システム全体を網羅的にスキャンし、脅威を検出・駆除します。効果は高いですが、実行中はパフォーマンスが低下します。
感染が疑われる端末などの不正な通信を遮断し、被害の拡大を食い止める対応です。粘着トラップがGをその場で動けなくするように、脅威をそれ以上広げさせない初動対応として有効です。状況が収まれば復旧も可能です。
完璧な対策は存在しません。穴は必ずあります。それでも、重ねて、備えて、戦い続けるしかありません。装備は、多いに越したことはないのです。
セキュリティの知識は、難解な技術書の中だけにあるわけではありません。日常の中で「なぜ、ここが狙われるのか」「どう備えればいいのか」を考える習慣こそが、最初の一歩です。
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