クラウドは「コンピューターの共同利用」というアイデアと、インターネット、特に「World Wide Web」の技術が結びついて生まれました。特に何の役にも立ちませんが、今日はクラウドコンピューティングの源流について紹介しましょう。
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コンピューターが一般企業で使われるようになったのは1960年代からです。ただし、当時は非常に高価なもので、そう簡単に買えるものではありませんでした。あまりにも高価なので、日本では国策のコンピューターレンタル・リース会社が生まれたくらいです。たとえば1966年に出荷が開始された「IBM System/360モデル75」は、構成によって220万ドルから350万ドルだったそうです(*)。当時は1ドル360円ですからざっと8億円です。モデル75が上位機種であることを考慮しても、いかに高価だったかが分かるでしょう。
*参考:System/360 Model 75
また、1台のコンピューターを複数の企業で共有するアイデアが生まれました。人工知能研究の先駆者であるジョン・マッカーシー博士は、1961年のMIT(マサチューセッツ工科大学)100周年記念式典のスピーチでこんなことを言っています。
(水道や電力のように)コンピューターの能力や特定のアプリケーションを販売するビジネスモデルを生み出すかもしれない。
当時想定していたのはTSS(タイムシェアリングシステム)という技術です。今では1台のコンピューターを何人かで同時に利用するのは当たり前ですが、当時はそうではありませんでした。先に紹介したIBM System/360も、TSS機能が「TSO(タイムシェアリングオプション)」として正式なオプションなったのは1971年のことです。
本来、TSSはコンピューターを所有する組織の内部で使われるものですが、通信技術が発達することで、遠隔地から利用できるようになり、複数の組織で共用できるようになりました。日本でも電電公社(現在のNTTおよび分社化前のNTTデータ)が、電話回線を使ったTSSを、「DRESS(販売在庫管理サービス)」や「DEMOS(科学技術サービス)」を1970年頃に開始しています。
こうして「高価なコンピューターを購入し、それを多くの会社で共同利用させて利用料金で稼ぐ」というビジネスモデルが生まれました。また、この頃から「サービスを提供するコンピューター」を「サーバー」と呼ぶようになったようです。ただし、その後コンピューターの価格は大きく下がったため、TSSビジネスは下火になります。DRESS/DEMOSのサービス終了は1995年頃なので、ちょうどインターネットと入れ替わった格好になります。
研究者用のネットワークとしてスタートしたインターネットは商用利用が禁止されていましたが、1990年頃から徐々に緩和され1995年にすべての制限が撤廃されました。Amazon.comが書籍販売を始めたのも1995年です。
インターネットがここまで普及したのは2つの理由があります。1つは誰でも自由に接続できて、世界中のほとんどどこでも安価に接続ができるようになったこと。もう1つはWorld Wide Web (WWW)の利用です。現在では、WWWは単に「Web(ウェブ)」と呼ぶのが一般的です。
Webの仕組みは非常にシンプルで、利用者(クライアント)がWebブラウザーからhttp://またはhttps://で始まる「URL(Uniform Resource Locator)」形式の要求(リクエスト)を提示すると、Webサーバーから返事(レスポンス)が返ってくるだけの仕組みです。
当初は決められた文字や画像が返ってくるだけでしたが、その都度計算した結果を返すように進化しました。たとえば、「消費税を計算する」というアプリケーションがあったとします。利用者は、税抜価格と商品種別を指定して「消費税を計算しろ」と要求(リクエスト)を出します。消費税計算アプリは、商品種別から軽減税率対象であるかどうかを判別し、税率から税額を計算して結果(レスポンス)を返します。
「リクエストに対して応答する」というのは、コンピューターの動作そのものです。そこで、Webサーバーをプログラムのように扱うことが提案されました。Webの場合は、ネットワーク上にデータが流れるので、コンピューター内部のやりとりよりも遅くなりますが原理としては変わりません。表計算ソフトの代表であるExcelも、人間がデータを入力すると、あらかじめ決めた規則に従って計算結果を返せばいいのですからWebで実現できます。これは実際にMicrosoft Office Onlineとして提供されているので、使ったことがある人もいるかもしれません。
「サーバーの共同利用」と「インターネット」が結びついた結果として生まれたのが「クラウドコンピューティングサービス」です。1970年代のTSSも共同利用の一種ですが、電話回線を使うため通信料が高額になります。しかし、クラウドではインターネットを利用することで料金を大幅に抑えられます。
クラウドでは、Webブラウザーから「サーバーを作成しろ」とか「アプリケーションを構成しろ」というリクエストを出します。これを受けて、クラウド提供者(たとえばMicrosoft Azure)がサーバーを作成したり、アプリケーションを構成したりします。その後は、通常のサーバーやアプリケーションと同じように使うことができます。利用者は、世界中のデータセンターにあるサーバーを自由に構成することができ、使った分だけの料金を支払います。
こうして「高価なコンピューターを購入し、それを多くの会社で共同利用させて利用料金で稼ぐ」というビジネスが再発見されました。従来のTSSと違うのは、構成の自由度が圧倒的に上がっているということです。あらかじめ決められたアプリケーションを使うだけでなく、自分で新しいアプリケーションを作ることもできます。また、サーバーの台数や構成(CPU数やメモリ量)なども選択できます。
「設備投資はせず、使うだけ使って、使った分だけ払う」というのがクラウドの本質ですが、「カスタマイズの自由度が高い」ということが単なる共同利用と違うところです。
クラウドに対して、自社で所有するサーバー環境を「オンプレミス(on-premises)」と呼びます。「premises」は「土地・建物」の意味で、常に複数形で使います。
英語の「premises」のもともとの意味は「前提」です。「pre」は「前に」を意味する前置詞で、「mise」は「送る」を示す言葉です(ミサイルのmissと同じ語源です)。そこから「前提」や「先に述べた(申し送った)こと」を意味するようになり、遺言書などで多く使われたそうです。遺言書で「先に述べたこと」は財産、特に不動産のことが多く、そこから「土地・建物」の意味も持つようになったということです。
「クラウド」という言葉がIT業界で有名になったのは、米グーグル社CEO(当時)のエリック・シュミット氏が2006年8月9日に「検索エンジン戦略会議」の講演で使ってからでしょう。こんな言葉で紹介されています。
まず前提として、データサービスとアーキテクチャーはサーバー上にあるべきです。私たちはこれを「クラウドコンピューティング」と呼んでいます。
ここでいう「データサービス」は「データ」、「アーキテクチャー」は「アプリケーション」と思ってください。
「クラウド」の言葉が入ったサービスの代表に、AWS(Amazon Web Services)が2006年8月25日から提供している「Elastic Compute Cloud (EC2)」があります。サービス開始はエリック・シュミット氏の講演から2週間くらいしかたっていないので、実際には2006年以前から「クラウド」という言葉が使われていたのかもしれません。
そもそも通信業界ではシステム構成図を描くときに雲の絵を使っていました。ネットワークは大きく分けるとLAN(ローカルエリアネットワーク)とWAN(ワイドエリアネットワーク)があります。両者はローカル(近距離)かワイド(広域)というより、設置責任者の違いで区別されます。
LANは、自前で設置する回線です。実際の施工は工事業者が行いますが、ネットワーク機材の選定や障害時の対応などは自社で決めます。LANは主に直線で表現します。大きな工場などでは、敷地の端から端まで数キロメートルに及ぶこともあり、ちっとも「ローカル」ではありませんが、それでもLANです。
WANは通信回線業者(キャリア)と契約して使うもので、自分で設置することはありません。たとえ隣のビルでも、キャリアの回線を使っていればWANです。利用者は、回線速度などのサービスレベルと価格を回線業者と同意した上で契約します(この契約を「サービスレベルアグリーメント(SLA)」と呼びます)。サービスレベルにない項目、たとえば交換機にどのような機種を使うのか、どういうハードウェア構成にするのか、そういったことは知る必要もありませんし、教えてもくれません。もちろん指定することもできません。
このように「契約に従って決められたサービスを提供してくれるが、利用者は実際の機材や構成方法について関知しない」というものを昔から雲で表現しています。そう考えると、クラウドの意味も分かりやすいのではないでしょうか。
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