本ブログは2021年9月13日実施の無料セミナーのサマリーレポートです。
弊社人材教育シニアコンサルタント田中淳子(たなか じゅんこ)が2021年7月に経団連出版より『事例で学ぶOJT 先輩トレーナーが実践する効果的な育て方』を出版しました。この本は、田中がOJTトレーナー研修やコミュニティ活動を通じて見聞きした現場の事例を100以上盛り込んだ実践書です。
今回、この書籍出版を記念し、「若手のOJTのイマ」と「ニューノーマル後のOJTのコレカラ」をお話ししました。
「若手のOJTのイマ」
以下は、「若手育成を担うOJTのイマ」についての解説ポイントです。
若手の育成“OJT”の課題
- 1990年代までのOJTは現場にお任せだった。人を育てることに対する想い、知識やスキルにばらつきがあるため、OJTがうまくいく組織といかない組織があった。さらに、職場環境が激変し、従来の方法では新入社員が育たなくなってきた。その頃、離職・メンタル不全なども徐々に職場では問題となりつつあった。
- 2000年ごろから人事部・人材開発部主導でOJTの制度化を図るようになる。これは、1人の新入社員に1人のOJTトレーナーをアサイン(縦の関係)する形態で、新入社員を育成する担当者を決めることで新入社員を組織として育成することが可能になる。
- 近年はOJTトレーナーとは別に、メンターをアサインする企業も増えている。メンターは、別組織の先輩など“斜めの関係”であることが多い。新入社員に関わる先輩社員の数を増やすことで、社内人脈作りを手伝い、新入社員の組織社会化(組織に馴染み、組織で仕事ができるようになること)を促進している。
OJTで重要なポイント
- OJTは「人を育てるプロジェクト」ともいえるため、まずは、育成のゴールとなる人材像や計画を作り、それを組織で共有し、「見える化」するとよい。
- OJTトレーナー1人で育成を担うというよりも、周囲を巻き込みながら、育成を推進するという面が強く、新入社員が成長するとともに、OJTトレーナーもまたリーダーシップが強化されるという側面もある。
- OJTトレーナーには「OJTトレーナー研修」を実施し、教え方・育て方の知識やスキルを学ぶと、勘や経験頼りのOJTにならずに済む。
- 一方で、「OJTの受け方研修」を採用する企業が増えている。これは、新入社員が、OJTの「お客様」にならないようにし、成長の主体は自分であるということを理解することが目的である。
ニューノーマル時代のOJT課題と対応
2020年コロナ禍以降、テレワークやオンライン研修なども盛んとなってきてからの、若手育成についてのポイントは以下の通りです。
ニューノーマル時代のOJT課題
- リモートワークへの移行など、社会の常識が大きく変化した。成長に関しても環境が大きく変化した。たとえば、同じ職場での会話や、社外などでの学びも難しくなった。これにより、非公式な場面での学びが激減した。たとえば多様な社内外人脈のつながり作りが難しい(様々な社内イベントや会食の機会も減少したことで、なんとなく学んでいたこと、知っていたことを学ぶ、知る機会が減っている)
- また、リモートでOJTをする際、マネジャーやOJTトレーナーは新入社員に対して辛口フィードバックはしづらいという声も増えている
- あるタスクを教えて仕事をする、と言うレベルであればリモートだけでもなんとかなるだろうが、これまで非公式に行われていた様々な学びや成長の機会となっていたものが減ったことで、新入社員側の学びと成長にじわじわと影響が出てくるのではないかと懸念している
- オンラインで学べることにも向き不向きがあり、対面機会が減った新入社員には、これまで(2019年)以前と比べれば、時間をかけて指導していく必要がある。たとえば、最初は丁寧に教え、徐々に任せるようにするとしても、その時間のかかり方が変化している(伸びている)
テーマトーク
多く寄せられる疑問点、相談にお答えする形式で解説しました
今後のOJTで変わらなければならないことは何でしょう?
- 教える時間はどんどん少なくなるので、新しい方法、デジタル活用やテンプレ化は必須
- トレーナー1人に任せてしまうと、トレーナーのコピーみたいになってしまうことも
- 多くの人が関わった方が、新入社員の成長が良いという研究結果もある
今後も不変なこと、変わらないものは何でしょう?
- 「人を育てる」本質は変わらない
- 仕事の楽しさを覚えてもらうことが重要
- 耳の痛いフィードバックをちゃんと言うことも重要。初期段階で信頼関係ができていれば、変な風には取られなくなる
- ただし初期の、新入社員と並走する時期では、萎縮させないためにもあまり厳しくしない方がいい。彼らが自走し始めてから、フィードバックをしていく
2022年以降、若手育成やキャリア自律はどうなりますか?
- 国が「キャリア自律」を推進、新入社員時代から、キャリア自律の視点を持つことは必要
- 仕事の仕方もOJTも研修もコロナ前の状況には戻らないだろう
- ここ5~6年の若手は、将来どうなりたいかというビジョンを抱きにくくなっている
- 日本人のビジネスパーソンは、将来どうなりたいかという「ビジョン型」よりも、どう働きたいのかという「価値観型」のタイプが圧倒的に多い。「今何を大切にしているか」という点からキャリアを考えてもらうようにするとよい
OJTトレーナー・人事・人材開発部門ができること、すべきことは何ですか?
- 新人との「関係性」を構築することが大事
- OJTトレーナーが「ワンオペ(ワンオペレーション:一人で担当し全ての面倒をみること)」状態にならないように、相談に応じてくれる先輩など育成ネットワークを社内に作るといい
- チームで育てるという方法も有効。テレワークの場合、出社しているメンバがどうやって新入社員と関わるか、体制を整えることも大事
- 「人の育成は大事」、「みんなで教育する土壌を作りたい」といったメッセージはトップダウンで出してもらうと育成の空気が醸成されやすい
総括
Beforeコロナに戻すのではなく、新しい「学び」の方法を作り出す
- 新入社員に学ばせたいことを再定義する
- そのためにどういう方法があるかを現場と共に模索する
- OJT頼り、 Off-JT頼りの一択ではなく、ほかの方法も探究し編み出す
環境・他者から学ぶ機会の創出に創意工夫を
- 人との関係で得られたものが減っている中、どうやって学習機会を創出するかを考える
- 同期、不特定多数の同僚、社内外の方と「意図的」に引き合わせたい
現場の声、特に若手社員(オンライン・ネイティブ)の声を生かす
- 最初からリモート/オンラインという新入社員のほうが、体感している良さや課題があるはず。彼らの生の声を聴いて、施策や取り組みに生かす
セミナーを終えて
セミナー後田中淳子がセミナーご参加者の方と会話する機会があり、以下のようなコメントが寄せられました。(企業や個人が特定されないよう配慮の上記載します)
- テレワークやオンライン研修でも学ぶことは多々あるとしても、「物理的に同じ場所」にいることで知らず知らずに学んでいた「ちょっとしたこと」が抜け落ちる可能性があるのだな、と気づきました。このような点を意識して、現場の育成に取り組まないといけないなと思いました。
- 様々な企業での取り組み事例を聴くことができて、有意義でした。「OJTトレーナーと新入社員とのペア研修」とか「価値観を共有してからスタートする」という考えも斬新です。
今後も、企業で働くビジネスパーソンに有益なセミナーを企画・開催していきますので、どうぞお気軽にご参加ください。
スピーカー・書籍のご紹介
トレノケート講師 田中 淳子
資格・認定
国家資格キャリアコンサルタント
産業カウンセラー
プロフィール
ビジネススキル全般のコースを担当。新入社員研修からリーダー層、管理職層まですべての人材開発に携わる。2018年度からは「1Day REAL」シリーズを立ち上げ、「1日で学べる超実践的コース群」を充実させるプロジェクトを推進中。近年は、「全社モチベーション向上研修」「全社キャリア開発支援研修」など、「全社員向けの施策」のコンサルテーションから入り、研修とその後のフォローまでに関わっている。組織をより良くするとともに、働く個々人がよりハッピーになるお手伝いに力を注いでいる。
著書に、ロングセラーである『はじめての後輩指導』(経団連出版)や、都川との共著『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(日経BP社)、最新刊「事例で学ぶOJT: 先輩トレーナーが実践する効果的な育て方」(経団連出版 2021年7月12日発売) などがある。人材開発などについてのブログ「田中淳子の"大人の学び"支援隊!」(外部リンク)、「トレノケート人材開発用語集」(外部リンク)、など、Webでの情報発信にも力を入れている。
事例で学ぶOJT 先輩トレーナーが実践する効果的な育て方
著者 田中 淳子 著
価格 1,760円
ISBN 978-4-8185-1931-2
出版社 経団連出版
トレノケートの無料セミナー
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